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東京地方裁判所 昭和34年(モ)9668号 判決

申立人 杉山利郎

被申立人 本橋光三

主文

本件申立は、却下する。

訴訟費用は申立人の負担とする。

事実

申立人訴訟代理人は、当裁判所が昭和三十四年(ヨ)第二、四二九号不動産競売手続停止仮処分申請事件につき同年四月二十四日した仮処分判決は申立人において保証を供することを条件として取消す旨の判決を求め、その理由として、

「被申立人は、昭和三十四年四月二十四日株式会社東京相互銀行外一名を相手方として東京地方裁判所に対し別紙物件目録記載の不動産に対する同裁判所昭和三十三年(ケ)第九三七号、同年(ケ)第一、八四二号競売手続停止の仮処分を申請し(同庁同年(ヨ)第二、四二九号事件)、同裁判所は同日その旨の仮処分決定をした。ところで申立人は前記競売手続において、本件不動産を二百三十万百円にて競落し、右競落代金の約一割に当る保証金二十三万百円をすでに予納ずみであるにかかわらず、右仮処分決定により本件不動産の引渡を受け、これを利用することができない。しかも被申立人は他に住居を有し自らこれを使用する必要がないばかりか本件不動産のうち目録(二)の建物は現在空家のまま放置され、目録(三)の建物には間借人が住んでいるにすぎないため完全に利用されているとはいえず、社会経済上の損失も少くないのに反し、被申立人が本件仮処分を取消されることによつて蒙るべき損害は軽微にして金銭による補償が十分可能であるから、特別事情が存在するものとして、本件仮処分決定は取消されるべきである。なお、申立人は本件不動産の競落許可決定を得たときを以つて右不動産の所有権を取得したものであり、仮にそうでないとしても競落代金の約一割に当る金員を予納したものであるから、本件不動産の事実上の承継取得者として本件仮処分の取消を求める適格を有するものである。」と述べた。

被申立人訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「被申立人の申請により本件不動産に関する競売手続につき申立人主張のような仮処分決定がなされたことは認めるが、申立人は右仮処分決定の取消を求める適格を欠くものである。

すなわち仮に申立人がその主張のように本件不動産を競落し、競落代金の一部を予納しているとしてもそれだけではいまだ本件不動産の所有権を取得したものとはいえず、申立人は本件不動産につき何ら法律上の権限を有しないものであるから、本件仮処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有しない。

仮に申立人が本件仮処分決定の取消を求める適格を有するものとしても、本件仮処分によつて保全せられるべき被申立人の権利は登記手続請求権であつて、金銭的補償に適せざるものであるから、本件申立は結局排斥を免れない。」と述べた。

理由

被申立人の申請により本件不動産に関する競売手続につき申立人主張のような仮処分決定がなされたことは当事者間に争いがない。

申立人は右仮処分によつて停止を命ぜられた本件不動産に対する競売手続において右不動産を競落し、右競落許可決定によつて本件不動産の所有権を取得するとともに競落代金の約一割に当る保証金を予納ずみであるから、本件仮処分決定の取消を求める適格があるというが、競売物件は競落代金を完納したときはじめてその所有権を取得するものと解すべきであり、また保証金を予納しただけではいまだ競売物件につき何ら法律上の権限を取得したことにはならず、単に事実上競売物件の所有権取得を期待できる地位に立つただけであるから、申立人主張のような事由を以て本件競売物件につき法律上の利害関係を有するにいたつたものとはなし得ない。

よつて、他に特段の主張疏明がない限り本件不動産の競売手続に関する仮処分決定の取消を求める申立人の本件申立はその当事者適格を欠くものとしてこれを排斥すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村修三)

物件目録

(一) 東京都中野区昭和通三丁目三十七番の八

宅地 五十坪二合

(二) 同 区昭和通三丁目三十七番地

家屋番号 同町三六七番

木造瓦葺二階建居宅 一棟

建坪 十二坪五合、二階 七坪五合

(三) 同所同番地

家屋番号 同町三七九番

木造瓦葺二階建居宅 一棟

建坪 十二坪五合、二階 七坪五合

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